名人・達人
マイ・スター
クローズアップ


 #1541 すごい人 個性的な人 紹介したい人
舞踏家 オドラデク道路劇場主宰 福士正一(FUKUSHI SHOICHI) 
生成空間オドラデク 青森市安田字近野134-15
ホームページ
公務する舞踏家”正ちゃん”
オドラデクとはなんだろう。

福士正一氏の主宰する「オドラデク道路劇場」という名前を聞いた者は、第一にそう思う。
「カフカのとても短い小説『ある父親の心配事』というやつに出てくる、生物とも物体ともつかない怪しげな存在なんです。カフカの造語なんですが、津軽弁のようでもあり、“オドリ”と“デクノボウ”を足したような奇妙な響きが気に入ってます」

福士正一氏は、普段は市役所に勤めている公務員。衣装を脱ぎ、白塗りのメークアップを落とした素顔は柔和で穏やかな紳士だ。

「踊りというのは、その人の生きザマをどう見せるか、という気がしています」
「踊りはどこでもできますが、お客さんと一体になって共振できる『場』は、そう多くはないでしょう。その場を求めて、様々な場所を踊り歩いてきました」

『舞踏』は、アンチ・クラシック舞踊から生まれた。もともと舞踊界では異端なのだ。にもかかわらず、氏の舞踏は『欠陥舞踏』と評されることもあるくらい、さらに異端だ。

「バレエは西洋人のすらっとした体型で踊るから美しいんです。それをガニ股で重心が低い日本人の体型で踊っても西洋人にはかなわない。西洋人の真似ごとではなく、自分たち日本人の体の踊りが大事なんです。体は皆それぞれ違う。太っている人もいれば、手が長い人もいる。首が短い人もいれば、指が曲がっている人もいる。自分の体には自分だけの歴史があり、それはそのまま個性です。踊りは、その人の体を素直に見せていくことなんです。だから、全員違う踊りになるはずなんです」
「舞踏というよりは『正ちゃんダンス』と言われるほうがうれしい」 柔和な笑顔で笑う。

「自分が自在であるためには何かから自由でなければならないでしょう」 と氏は続ける。
「自分にも師匠はいるけれども、テクニカルなことは教えてくれなかった。いったん誰かについて、技術的なことを訓練すると、それから抜け出せなくなってしまうでしょう。幸い自分にはそれがなくてよかった」

氏の身体が自由に空間に溶け出していくのは、氏に限りなく自由な心があるからなのか。

そんな氏にとって青森はどんなところかを聞いてみた。
「環境が人の体をつくりますよね。寒い土地、雪の上を滑らないように慎重に歩くことで下半身は安定する。厳しい季節をのりきるために自然に身についてきたことです。青森はいろんな意味で都から追い詰められ、ギリギリのところに追いやられた人たちの歴史があるから、他人の痛みがわかっている。そういう意味で、自分の踊りにも、違和感を通り越して、笑って、泣いて、最後に受け入れる大らかさがあるんです」

福士氏は最後に青森についてこう締めくくる。
「懐の深い、少々風変わりなものでも冗談として呑み込んでしまうところだと思います」


『欠陥舞踏家』福士正一氏。彼の『正ちゃんダンス』は日常への緩やかな乱入だ。彼の乱入する空間の不思議なねじれを共有したい。
 この人のレビュー
レビューはありません。